2006年3月 6日
ぎふきた法人会報「篝火」表紙写真植物解説(ナノハナ、日本水仙、ユキノシタ、トキソウ、冬ボタン、スイフヨウ)

スイフョウ(酔芙蓉)
Hibiscus mutabilis f,versicolor アオイ科
忙しさに充実感を抱きながら生活をしてきた者が、仕事をしなくてよくなったからと言って1日何もしないで庭の花を見つめているなどという事はできない。しかしたまにはそんな1日をおくってみたい。
花には朝、咲く花、昼に咲く花、夜に咲く花、そして朝に咲き、昼や夕方には萎んでしまう花。また時間と共に花色が変わる花、等々。庭の中では花達の1日のドラマがあります。
朝、白色の花が咲き、その花が昼頃にはほんのりとした薄桃色に、夕方には赤色に変わる。そして翌朝には、昨日咲いた花が赤色、今朝咲いた花が白色と、1本の木に紅白の花が見られる。更に、株元に目をやると、咲き終えた赤色の花が散らばっている。これが「酔芙蓉」です。
花は八重咲きの為、人の顔のようにも見えます。「酔芙蓉」の名は、人が酒に酔うと顔色が赤くなる、事から付けらた言う。しかしそれだけでは観察不足のような気がします。花は一変に白色が赤色になるのではない。時間をかけながらゆっくりと色を変えていく。朝、蕾がほころび始めた時には、白色、それが、かすかに、少しづつ、少しづつ、色付いてくる。この微妙な色変わりが素晴らしいのです。昼頃になりやっと薄桃色に、そして夕方には赤色になります。それは色白の人が一口、酒を口にして、うっすらと桜色染まっていく様子にも似ています。演歌「風の盆恋歌」には「酔芙蓉」が歌い込まれています。作詞された、なかにし礼氏はそのようなところを見て、あえて、この花を歌詞に取り込まれたのでしょう。
「蚊帳の中から花を見る、咲いてはかない酔芙蓉………」
冬牡丹
Paeonia suffruticosa キンポウゲ科
「春に咲く牡丹が1月、雪が降る屋外の庭で咲いている」と聞けば、誰もが、まさか、と言う。
今では多くの花が温度とか日照時間を調節したり、ホルモン剤を使ったりして開花時期は自由にコントロールでき、季節はずれの花を見ても誰も驚きません。
「冬牡丹」は春に咲く牡丹の株を冷蔵庫に入れて眠らせたまま、夏を越し、秋に取り出して、冬に花を咲かせたものを言います。そして、その花は寒さの中、1ケ月位と、長く咲き続けるのです。
では、「何故、春に咲く、牡丹が冬の寒さの中で咲き続けられるのか?」、それは以外にも簡単。「牡丹の花はもともと、冬の寒さに耐える性質を持っていた…」と言う事だけなのです。
だからと言って、そのまま、庭に植えて観賞するのではなく。雪が被っては可愛そう…、少しでも寒い西風からも守ってやろう…、との思いから、1株、1株、形の良い、藁囲いがしてある。その光景を見ると、寒さを我慢しながら咲いている牡丹と、それを少しでも和らげてやろうとする暖かい人の心が伝わってくるようで、心が和みます。
「冬牡丹」によく似た名前に「寒牡丹」があります。これは遠く江戸時代に普通の牡丹の中から冬と春の2回咲く「二季咲き種」が選抜され、それに付けられた名で今日も多くの品種が残っています。しかし開花日のコントロールが難しいのと、牡丹のもつ豪華さがない事などから現代人には人気がありません。そこで我々の先人が冬に牡丹の花を楽しんだのを現代流にしたのが「冬牡丹」なのです。
トキソウ(朱鷺草)
Pogonia japonica ラン科
日本の空に、朱鷺の姿を見る事はもうできなくなってしまいました。しかし日本の大地には朱鷺の羽色をした美しい野生ランが今も自生しています。「朱鷺草」です。
日当たりの良い、じめじめした草むらの中で、茎を真っ直ぐ上に伸ばし、その中ほどに葉を1枚だけ付けます。それは回りの草に太陽の光が遮られない為であると言われます。花は6月頃、茎の先端部に1輪だけ付けます。花の付け根には小さな葉のようなものが付きますが、これは「包」言って、葉ではなく、花の一部なのです。葉も花も1株に一つ…、何と控えめな花なのでしょう。無駄のない、効率の良い生き方に感心させられます。そしてそのシンプルな草姿、花型は現代感覚にマッチし、共感を呼びます。
日本全土に自生すると言われますが、自然の中でその姿を見る事はなかなかできません、それを詠んだ歌があります。
朱鷺草のくれなゐまがふ草の原霧の流れはここまで来ず 松村英一
花が咲き終わり、夏を越し、秋になると葉は黄変し、地上部は枯れてしまいますが、土中に「根茎」が残ります。「根茎」は芽を中心にして、四方に数本伸び、太くて、養分をしっかり蓄え、翌年の芽出しを待ちます。野生種ですが栽培は「鷺草」と同様、簡単です。水苔だけか、川砂にピートモスを混ぜた用土で鉢植えにして、日当たりで育てます。湿り気を好む為、乾燥させないよう注意して下さい。鉢皿に水を入れておく方法もありますが、時々、溜まった水を換えてやります。一鉢に5~10芽位、植えておくと、花が咲いた時、朱鷺が群がって飛んでいるようで美しく見えます。
ユキノシタ
Saxifraga stolonifera ユキノシタ科
雪の下白く小さく咲きにけり喜蝶が部屋の箱庭の山
白秋
誰もが、何処かで見た事のある白い花、そのイメージは決して陽気ではない。それは生えている場所が暗く、じめじめしていて、黒い岩などに付着しているから。
江戸時代、町中の人たちは路地裏で園芸を楽しんでいた。ユキノシタは「石付け」にしたり、アワビなど貝殻に植え込んだりして…。今では料亭の庭などで見る。
この花は遠目には白い小さな花弁がひらひらと舞うようにして咲いている。しかし、近寄って一つ一つの花を見ると驚きである。5枚の花弁が同一ではない事に気づく。白く見えるのは2枚だけ、上方には小さいながらも3枚の花弁が凛々しく見栄をはっている。その花弁には桃紅色の見事な模様が画かれている。さらに雄蘂がカンザシのように突き出ており、女形の歌舞伎役者のよう。
ユキノシタは山野に自生する常緑の宿根草であるが、今でも古い民家の回りに、雑草のように生えている。これはこの植物が薬草であり、幼児のひきつけや火傷の治療に使っていた為。
ユキノシタの語源は「雪の下」で「白い花を降りしきる雪に見立て、その下で生きている草」の意。他に「雪の舌」もある。漢名は「虎耳草」。これは花ではなく葉が毛で覆われ、緑色で濃淡の模様がはいる為。日本では「花」、中国では「葉」が語源になっているのも面白い。
ユキノシタの名は「ユキノシタ科」にもなっており、それにはアジサイやウツギ など木のものまでが含まれる。日本に自生するユキノシタ科の植物は21属、約100種をも擁する大家族である。
ニホンズイセン(日本水仙)
Narcissus tazetta ヒガンバナ科
越前海岸は岐阜からも近く、誰もが行く観光地。温泉と蟹料理、そして日本海を前にそそり立つ岸壁では、寒風にさらされながら咲く「水仙」が有名。この水仙は他にも、南伊豆の爪木崎、淡路島には水仙郷の等の名所がある。又、農家の庭先や公園の片隅など、日本全国、何処でも見られるのがこの水仙でもある。故に「日本水仙」名が付く。ところがこの水仙、意外にも原産地は遠く、地中海地方。ナポレオンの故郷、シシリー島などと聞いて驚く。日本への渡来は古く平安時代。その来歴はドラマ。水仙の球根や花には、人に有毒な物質が含まれている。その水仙が何故か早い時代にシルクロードを経て中国で広まった。そして海流に流され、日本各地の浜辺に打ち上げられ、今日の群生地が出来上がったと考えられる。そして、安土桃山時代には既に、生け花の「五立花」の一つに数えられ、観賞用の花として重視されるようになっていた。又、身近な所でも地植えにして人々に親しまれ、多くの詩歌に詠まれている。更に「たけくらべ」など、小説にも記されるなど、日本人の生活に深くとけ込んでいる花と言える。
スイセンは「水の仙人」を意味する、漢名の「水仙」が語源。西洋ではギリシャ神話に出てくる、水中に散った美少年「ナルキス」を語源にした名が使われている。ところがこの「ナルキス」には「麻酔」の意もあり、球根が有毒である事を表している。
日本には古く「雪中花」の雅名もあったと記されている。その名の通り、雪の中でもしたたかに咲く数少ない花である。見慣れた花ではあるが、これからも大切にして、生活の中に取り入れていきたいものである。
菜の花 (別名:ハナナ、アブラナ)
Brassica Rapa アブラナ科
黄色い菜の花が一面に咲いている光景を見ると、昔見た早春の田園風景を思い出す人も多い。それは「ナタネ油」を採る為に水田の裏作で「アブラナ」が栽培されていたから。今日でもその絞り粕は「油粕」となって有用な肥料として利用されている。そして、春の花として歌に歌われ、端午の節句には雛壇に飾る花としてもなくてはならないものになっている。
菜の花や月は東に日は西に 蕪村
これは安永三年(1774年)三月二十三日に旅の途中、京都で詠んだ句と言われる。ゴマ油や椿油などと共に、菜種油は貴重であり、それを採る為にアブラナは古くから栽培されていた事を物語っている。
ところが今日、切り花用に栽培されている菜の花は縮緬ハナナと称し、縮緬白菜から分離したもの。その為、葉は縮緬状を呈し、蕾を摘んで食用にもなっている。又、春になると木曽川や長良川の広い河川地で一面、黄色い菜の花が咲く景色が見られる。これは「アブラナ」ではなく「カラシナ」が野生化したもの。共にアブラナ科の近縁種である為、花はそっくり。

